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アーカイブ: 2006/08/30
鎮霊社に纏わる分祀・分遷論
- 2006.08.30 Wednesday
- Politics
ご存じの方も多いと思いますが,靖国神社には鎮霊社(リンク)というお社があります。筆者は何度も靖国には参拝させていただいておりますが,存在は承知していたものの実際に足を運んだことはありません。リンク先(靖国神社HP)を見ると,以下のように記述してあります。
靖国神社本殿に祀られていない方々の御霊と、世界各国すべての戦死者や戦争で亡くなられた方々の霊が祀られています。
要するに,本殿に祀られているご英霊以外の全ての戦争犠牲者をお祀りしているお社ということになります。まぁこれだけでは定義に不備があるので,詳細な定義を以下の東京新聞特報記事(鎮霊社『靖国』の回答検証,抜粋)に譲ります。
【靖国神社広報課の回答(1)】
鎮霊社は、時の筑波藤麿宮司の発案で、戦なき平和を願い創建された御社。嘉永六(一八五三)年以降の戦争・事変にて非命に斃(たお)れ、職域に殉じ、病に斃れ、自ら生命断つなどして靖国神社に祀(まつ)られない御霊(みたま)と、同年以降の戦争・事変に関係し、死没した諸外国の御霊、二座を鎮祭している。
一八五三年という年は何を意味するのか。この年以降の戦争で死亡した人を祀ることは、鎮霊社のみならず靖国神社本殿にも共通している。
日本文化総合研究所の高森明勅(あきのり)代表はこう説明する。「靖国神社(当時の東京招魂社)が最初に祀ったのは戊辰戦争の官軍兵士。一八五三年のペリー来航から国難が始まり、明治維新につながったという認識があり、後にそこまでさかのぼって祀ることになった」
ここには,よく靖国批判論者から指摘される西郷隆盛もここに祀られていることになります(ご英霊ではありません)。日露戦争で武勲を挙げた乃木希典もまた,批判論者から何故か?よく採り上げられる方ですが,この方は明治天皇が崩御された際に殉死(自殺)されているので,上記及びご英霊の定義にも当てはまらないことになり靖国にはその御霊は居られないことになると思います(違っていたらご指摘下さい)。
また,1853年以降の全世界の戦没者を祀っているのも特徴的で神道の大らかさを物語ってますね。鎮霊社を指して,否定派は靖国本体との違いを差別だと言ってみたり,いわゆるA級戦犯を合祀するための前段として作ったのだろうと言ってみたり実にお忙しいようですが,むしろ靖国神社としては,そのご創建の趣旨から云ってお祀りしたくともお祀りできない御霊を慰霊したものだと,筆者は勝手に考えてます(鎮霊社の創建は昭和40年)。
というのも,靖国の合祀基準は一定でその都度好きなようにホイホイと変えて良いものではないからです。確かに,この基準は時代と共にその範囲を変更している問題点はありますが,不変なのは「天皇陛下のために殉じた方々」という一点です。これにそぐわない方々は心情的にいくら合祀したくとも出来ないことになりますので,なんとかお祀りする方法はないかということで鎮霊社が作られたものと解釈すれば,靖国及び神道の非常に柔軟な追悼の精神が表れていると思えます。
そもそも否定派は合祀基準自体が気に入らないので手を変え品を変え文句を言うのでしょうから何を言っても詭弁と映るのでしょう。世の中には文句を言っても”しょうがないもの”があります。この合祀基準も”しょうがないもの”です。
これを理解できない,若しくは理解しようとしない人達と相容れることは難しい,まぁそんなところでしょうか。
前置きが長くなりましたが,二日前に産経izaに産経抄前執筆者の石井英夫氏が以下のようなコラムを書いておられました。
【蛙の遠めがね】陛下、どうかご親拝を
かつては高貴な方のことに触れる時は「恐れ多くも」という前置詞をつけるのがならわしだった。それが約束事だった。 そこで恐れ多くもだが、この老蛙生(ろうあせい)はいまの天皇陛下と同じ昭和一ケタの生まれである。
ただし靖国の遺族ではない。しかし戦後61年目の夏が過ぎようとするいま、天皇陛下と靖国神社にお願い申し上げたいことを思い切って書くことにした。 それは、陛下にはどうか靖国神社にご親拝いただきたいというお願いである。一老蛙生としての切なる懇望である。
この8月15日、東京・九段の靖国神社を参拝した人の数は、過去最高の25万8000人にのぼった。老蛙生もそのうちの1ピキだったが、小紙を除く大手紙のすべてが「首相参拝」を批判した。ところがその各紙の世論調査では「参拝支持」がなんと多数を占めた。つまり人びとの意思は各紙論調をみごとに裏切ったのだった。
これは勝手な推測だが、そういう民意はいま天皇陛下の靖国ご親拝を熱く望んでいるのではないだろうか。ところが昭和50年11月に昭和天皇が最後におまいりなさって以来、今上陛下まで33年間も絶えて天皇の靖国ご親拝がない。これはどうしたことだろうか。
これでは祖国のため、天皇のためといって命をなげうった246万柱の英霊に対して説明がつかない。物事の道理が立たないというか、筋道が通らないというか、市井のカエルの頭脳では理解できないことなのだ。
この7月、昭和天皇のご発言メモなるものが世にでた。無私であらせられる天皇の私的なつぶやきを世間に流出させた関係者の無責任と不見識は、到底許されることではない。しかし百歩譲って、メモが昭和天皇のご意思だとした場合、老蛙生はこう考える。
神道の神髄は融通無碍(むげ)なところにある。世界にも類のない神道のすばらしさは、何ものにも束縛されない自由さにある。神道をめぐるシンポジウムに『いま、神道が動く』(片山文彦編、新人物往来社、平成13年)という本があった。同書で仏教学者のひろ・さちやさんは神道の基本原理の一つとして「神様でも間違える」ことをあげている。
神道の神は絶対無謬(むびゅう)のイスラム教やキリスト教と違い、一神教でなく多神教だから素戔嗚尊(すさのおのみこと)でも間違いをする。神様が間違うのだから、自分たちが間違うのは当たり前である。だから「今日はこれでいくが、状況が変われば問題を元に戻し、今度はこれでいく」。それが神道のいいところだというのだった。
天皇だってお考えが間違うことはありうる。靖国神社も時と場合によっては一度決めたことでも修正すればいい。そして宮内庁が硬直した石頭だったら、靖国神社は逆に柔軟な水平思考をすればいい。
たとえば、いわゆるA級戦犯14柱のみたまは靖国神社の一角にある「鎮霊社」にもう一度戻ってもらうのも一案だろう。これは分祀(ぶんし)ではなく、復祀だ。キーワードは「融通無碍」。すべては天皇の靖国ご親拝の実現のために、あらゆる英知と努力を傾けてほしいのである。(石井英夫)
石井氏の産経抄は筆者が思っていることを代弁してくれているようで,殆どの場合,溜飲を下げていたものでした。ですが,このコラムにはちょっと同意できません。
勿論,陛下のご親拝を切望するのは筆者も同じです,しかしだからと云って,あの富田メモを先帝のご意志だと仮定したこと,鎮霊社にかつて(いわゆる)A級戦犯が祀られていたと断定していることは石井氏らしくないミスリードだと思います。
とくに,鎮霊社の件は分祀論者にまたぞろ余計でいい加減な理論武装を施しかねません。
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